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暁の空に響く夢






――

―――





(大丈夫よ!私にどーんと任せておきなさい!)





―――待って…





(あなたを残して死んだりしないから。大丈夫、そんなに心配しないでよね)





―――ダメだ…行っちゃダメ…





(じゃあ、そろそろ行くわ…比叡さんたちが待ってるし)



(少しの間だけお別れね…二人のこと、頼んだわよ…響)





―――待って…行かないで……!





―――行っちゃダメだ……!暁姉…!















「―――暁姉!!!」



目覚めた場所は単冠湾鎮守府の一室。

艦娘毎に割り当てられた部屋、要するに響の自室である。



虚空を泳いだ己の手と見慣れた天井を見上げながら、



「また…あの夢か…」



と、響は自嘲気味に呟いた。



あの日を最後に姉である暁の姿を見ることは叶わなかった。

忌まわしき戦いが終わりを告げ、

艦娘として新たに生を受けた今になってもなお、である。



「死なないって言った癖に…」



吐き捨てるようにそう呟いた。



響は分かっていた。あの戦いに勝ち目なんて無かったことを。

暁もまた分かっていた。勝ち目の無い戦いをしに行くことを。





暁の最後は凄惨なものだった。

先頭に立って探照灯を照射し、それを合図に敵艦隊と殴りあったという。



探照灯を照らしている艦が無事である筈がない。



一瞬。ものの一瞬である。

暁は航行不能となり、後に沈没した。

惨殺、と言ってもいいだろう。





「やはりあの時…いや、止めよう」



無理やりにでも止めていれば…と考えたところで思考を破棄した。

当時の状況でそんな意見具申が通る筈がない。



というより、そもそもその時の私は意思を持たぬ一隻の艦にすぎない。

そう、そんなことを考えるだけ無駄なのだ。





「…顔でも洗いに行こう」



ベッドから降り、備え付けの洗面台へ向かう。

二、三度顔を洗い、鏡を見た。



酷い顔をした自分を嘲笑うように、乱暴に顔を拭く。

そのまま身支度を済ませ、朝食を取る為、食堂へ向かうことにした。

















――

―――



「あっ、響おねえちゃん!おはようなのです!」

「おはよう、電」



食堂に入ったところで妹の電に声を掛けられた。



「雷は…っと、そうか。今日の食事当番は……」

「はい、雷お姉ちゃんなのです」



ウチの鎮守府では食事は当番制になっており、

それぞれの艦娘が腕を振るうことになっている。





「司令官さんはこれも経験だって言っていたけど…」

「単純に給仕の方を雇う余裕が無いだけだね。まぁ必要もないけれど」



と、バッサリ否定したら電は苦笑いを浮かべていた。

否定しないところを見るに、内心その通りだと思っているのだろう。



「まぁいい。とりあえず食事にしようか」

「はい!もうお腹ペコペコなのです」



益体もない話をしながら雷のところへ向かう。

こちらに気付いたのか、雷が良い笑顔でこちらに手を振っている。










朝食を受け取り、雷と電と共に席に付いた。



「今日は和食にしてみたわ!さ、食べて食べて!」



ご飯に味噌汁、焼き魚に青菜のおひたし。

これぞ和食、と言わんばかりのメニューである。



「じゃあ食べましょ。いただきまーす!」

「いただきます、なのです!」

「…………」





―――暁姉と……



―――暁姉とも、こうやって食事を囲める日は、来るのかな……





「……き姉、響姉ってば!」

「……え?」



我に帰ると雷と電が心配そうに覗き込んでいた。



「響姉、もしかして食欲無い…?」

「どこか具合でも悪いのですか…?」

「あ……ごめん、少しボーッとしてた」



適当な言い訳をしつつ、慌てて箸を付ける。



「うん、美味しいよ」

「えへへ、良かったぁ。この焼き魚なんて自信作なんだから!」

「焼き加減が丁度良くてとっても美味しいのです♪」

「でっしょー!おかわりもあるからどんどん食べて!」

「おいおい、朝からそんなに食べられないよ」





妹たちと会話を楽しみながら食事を進めていく。

ふと、窓の外を見つめた。



自分の心とは裏腹に、雲ひとつない快晴である。

今日は暑くなりそうだな…などと思いつつ、また食事に戻る。









―――○○年五月六日。



―――奇しくも駆逐艦「暁」の進水一日前であった。















「…………」



駆逐艦たちの微笑ましいやり取りを神妙な面持ちで見つめる者が、一人。

その人物に爽やかな笑顔を手土産に近付く者が、また一人。





「木曾さん、おはようございます。ここ、座っても良いですか?」

「青葉か。ああ、構わないぜ」

「ありがとうございますー!今朝のご飯も美味しそうですねぇ♪」



秘書艦である木曾に諜報担当の青葉。

どちらも発足当初からこの鎮守府を支えている古株だ。



既に食事を終わらせ、業務の資料に目を通す木曾。

来たばかりの青葉は雷の料理に舌鼓を打つ。





やがて食事を終えた青葉がポツリと呟いた。

「響さん、大丈夫でしょうか…」



青葉の発言にやはり、という顔をする木曾。

「青葉も気付いてたか」

「ええ、あそこまで上の空な響さんを見るのは初めてですし」



普段は飄々としている為そうは見えないが、青葉は他人の些細な変化に鋭い。

本人に自覚は無いのだが、青葉のそういう所を司令や木曾は高く買っていた。



「このままだといつか取り返しのつかないことが起こりそうで…青葉、心配です」

「だよなぁ……」





響は普段、雷や電などの駆逐艦たちの統括、兵装管理などを任されている。

冷静な状況分析に長けていて、他の駆逐艦からの信頼も厚い、という理由ではあるが、

駆逐艦が要職に就くというのは他の鎮守府からすれば異例の大抜擢である。



その冷静沈着な響の様子がおかしい。

統率の乱れや兵装の思わぬ不備など、何かあってからでは遅いのである。





「ところで、本日の業務はどんな感じなのですか?」



話題を変えようと青葉は木曾に質問した。

こういう機転が効くところも彼女の長所である。



「いつもと大して変わらんさ。遠征に開発、演習等々…って感じだ」

「また出撃は無しですか。まぁウチ貧乏ですからねぇ」



たはは…と力なく笑う青葉に、こめかみの辺りを軽く抑える木曾。



「まぁ飯が普通に出てくるだけ最悪ではないけどな」

「違いないです」



顔を見合わせて笑う二人。

深刻になり過ぎないこの二人が上にいるからこそ、

この鎮守府は成り立っていると言えるのかもしれない。





「でも『大して』ってことは、何かあるんですか?」

「何かって訳じゃないんだが…演習相手の要望が少し変わっていてな」

「要望…ですか」

「ああ、何でも軽巡一隻に駆逐一隻、合計二隻による水雷戦を行いたいそうだ」

「それはまた変わってますねぇ」



通常、演習はお互いの練度の向上の為に行うものであり、

六隻の艦隊を組んでの艦隊戦が基本となる。



それが今回は二隻、それも軽巡と駆逐のみというのだから合点がいかないのだ。





「本日の演習相手は隣の鎮守府でしたっけ?神通さんのいる」

「そう、今回出てくる軽巡というのも、あの神通だ」



川内型軽巡洋艦、二番艦、神通。

世界最強とまで謳われた第二水雷戦隊の旗艦を最も長く務めた、

軽巡屈指の実力者である。



普段は穏やかな優しいお姉さんといった紹介が似合いそうな艦娘だが、

こと訓練や戦闘になると穏やかな性格はなりを潜め、彼女は鬼と化す。



「華の二水戦、というよりは…」

「『鬼』の二水戦、ですよねぇ…」



思い出したくないものを思い出したかのように、二人の表情は引き攣る。

二人がこんな表情をするのも無理もない。





以前も神通のいる鎮守府と演習を行ったのだが、

神通一人にこちらの三隻が行動不能に追い込まれたのだ。



結果としては、木曾が相手旗艦を行動不能にしたおかげで

辛くも判定勝ちを収めたが、内容では完全に負けていた。





「でもまぁ、やられっぱなしってのも癪だからな。今回は完全に勝ちに行くぜ」

「ほぅ。ではウチの軽巡は木曾さんで行く、ってことですね」

「当然だ」



木曾がニヤリと笑う。

冷静ではあるものの、木曾もまた、好戦的な性格の持ち主である。

そういう点では神通と通じるものがあるのかもしれない、と青葉は思案した。





「……って、ちょっと待ってください。木曾さん、もう雷巡じゃないですか」

「あ……まぁ黙ってればバレないだろ、うん」

「以前と大幅に艤装が変更されているのですからバレますって」

「バレたらその時だ、神通を説得するさ。あいつも強い相手の方が訓練になるだろ」

「いいのかなぁそれで…まぁ青葉は面白ければ何でも良いですけど」

「お前も大概良い性格してるよな」

「えへへ、恐縮です」

「褒めてねぇよ」



通常なら許されない行為に違いない。

だが木曾は何となくではあるが、確信に近いものを感じていた。





―――恐らく、向こうは軽巡の枠は誰が来ても良いと思ってる。



―――むしろ、本丸は……





「…それで、向こうの駆逐艦はどなたが出てくるのでしょう」

「雪風が来るって話だ」

「うわぁ…よりにもよって雪風さんですか」

「奇跡の駆逐艦に華の二水戦旗艦、相手にとって不足無しだぜ」



陽炎型駆逐艦八番艦、雪風。

主要な海戦に多数参加しながらも、ほぼ無傷で終戦を迎えた、

文字通り「奇跡」を体現した駆逐艦である。





神通に雪風。

どちらも誰に聞いても様々な逸話が聞ける程の武勲艦。

並大抵の練度では到底太刀打ち出来ないことは、火を見るよりも明らかだ。



「それで、ウチからは誰を選出するんですか?」

「それは…もう決めてある」



そう言い残して木曾は席を立った。

そしてそのまま、今回の本丸になるであろう艦娘のところまで足を運ぶ。





「この後、執務室まで来てくれ。今日の打ち合わせをする」

「……了解した」





その艦娘とは、他でもない響であった。

















――

―――



「こんにちは、木曾さん。本日はよろしくお願い致します」

「遠路はるばる…って程ではないか。よく来てくれたな、神通」

「響さん!お久しぶりです!」

「雪風もよく来てくれたね、歓迎するよ」



午後に差し掛かった頃、神通さんと雪風はやって来た。

流石に昼食を食べてすぐという訳にもいかないので、

昼食は演習が終わってから取ることにしていた。



「まぁ演習が終わったら一緒に飯でも食おうぜ。

今頃、青葉が昼食を作っているはずだ。あいつのカレーはなかなか美味いぞ」

「それは楽しみですね……ところで木曾さん」

「……なんだ」

「重雷装艦に改装されたのですね。おめでとうござ…」

「すみませんでした」



木曾さんが土下座している。

こんな姿、初めて見た。



「私、あらかじめ言いましたよね?軽巡一隻と駆逐一隻の演習だと」

「はい。返す言葉もございません」



聞いたこともないような敬語を使っている。

…惜しいことをした。

青葉さんにカメラ借りて来れば良かった。




「…なんて、冗談ですよ。顔を上げてください、木曾さん」

「……え?」

「ごめんなさい、実は前もって青葉さんから聞いていて、

双方の鎮守府間では既に合意済みなんですよ」

「なん……だと……」

「ふふふ、本気で謝る木曾さんが見たくて、つい…」

「お前なぁ……」



クスクスと笑う神通さんに、バツの悪そうな木曾さん。

…この光景も貴重だな、うん。

しっかり目に焼き付けて、後で青葉さんに報告し……



「響」

「……はい」

「青葉に報告したら……分かってるな?」

「……Да(ダー)」



読まれていた。

やはりこの人も只者ではない。





「…じゃあそろそろ行くか。演習場はあっちだ」

「そうですね、あまり青葉さんを待たせるのも悪いですし」

「その辺は大丈夫だろ。どうせすぐに終わるんだから」

「一発でもまともに受けたら致命傷は免れませんものね」

「なぁ、神通知ってるか?勝った後の飯は格別なんだぜ」

「ええ、相手を完膚無きまでに叩き潰した後のご飯は美味しいですよね」





「「…………」」





「「ふふふふふ…………」」





二人の間に火花が散っている。

何だこのプレッシャーは、怖いよ。



(お二方ともヒートアップしてますねぇ)

(そうだね…まぁあれで結構仲良いんだよね、あの二人)

(そうなんですよね)



小声で雪風とやり取りする。

無邪気に笑う姿だけ見ると、どこにでもいそうな普通女の子だが、

彼女は紛れもなく『あの雪風』の生まれ変わり。

戦闘能力は並の駆逐艦を軽く凌駕する。





「響さん、私も負けませんよ!」

「ああ、望むところさ。こっちも負ける気はない」



自分も終戦まで生き残ったとはいえ、性能自体は並、だ。

だからと言ってただで負けてやる訳にはいかない。



でも、どうして自分なのだろうか。

その答えを導き出せないまま、私たちは演習場に辿り着いた。

















――

―――



「じゃあ、始めるか。ルールは前と同じで大丈夫か?」

「ええ。昼の砲撃戦の後に雷撃戦、そして夜戦ですね」

「ああ、雪風たちもそれでいいか?」

「はい!雪風は大丈夫です!」

「ああ、問題無いよ」

「よし、じゃあシステムを起動してくるから少し待っててくれ」



軽くルールの確認をしてから木曾がシステムの起動に向かった。

戦闘シミュレーター。

実際の戦闘を想定して気温や波の荒さ、時間まで設定可能な演習施設である。



貧乏鎮守府なのに何故このような施設が…という疑問もあるだろうが、

この施設のせいで貧乏なのである、と考えれば話は早いだろう。



「おかげでウチの鎮守府は出撃もままならないよ…」

「あはは……」



嘆く響に苦笑いを浮かべる雪風。

雪風に気を使われるようでは御終いである。





「よし、準備出来たぞ。それじゃあ位置に付こう」

「了解です。じゃあ雪風さん、行きますよ」

「はい!神通さん!では響さん、よろしくお願いします!」

「ああ、お手柔らかに頼むよ」



軽く言葉を交わして四人は位置に付く。










「さて…木曾さん、作戦はどうするんだい?」

「まず俺が甲標的で魚雷を神通にブチ込む。

当たる当たらないに関わらず、水柱が上がると同時に突っ込むぞ」



重雷装艦の特権を活かした突撃戦法。

戦法というべきか特攻というべきか。



「軽巡洋艦じゃ出来ない反則スレスレの所業だね」

「合意の上なら問題ねぇ。それに……」

「それに……?」

「あいつら相手にそうも言ってられねぇだろ」

「それはまぁ…確かに」



木曾の言葉に同意せざるを得ない響。

綺麗な勝ち方をさせてくれるような相手では、決してない。



「俺は神通に行く、響は雪風を叩け」

「タイマンか…あまり得意じゃないけど、仕方ない」

「それ、お前の台詞じゃねぇだろ…まぁいいか」

「さて、相手はどう出てくるかな……」









「神通さん、どうしますか?」

「恐らく木曾さんが開幕で魚雷を私に放ってくるはず…

それを合図にそのまま突っ込んで来ると思うので各自で迎撃しましょう」

「了解です!」



相手方の作戦を、まるでレーダーでも搭載してるかのように言い当てる。

この辺りにも彼女の恐ろしさが垣間見える。



「…それと、雪風さん」

「何でしょう?神通さん」

「今回は夜戦まで行きたいので…そこの所よろしくお願いしますね」



足元の兵装に手を触れながら、神通は雪風に微笑みかける。

その姿だけ見れば大和撫子のそれなのだが…まぁ言うだけ野暮というものだ。



神通の意図を読み取った雪風もまた笑顔で、

「分かりました!雪風、頑張ります!」

と、元気に返すのであった。










「よし…じゃあ始めるぞ!」

「はい、推して…参ります……!」





―――戦闘、開始。





「行くぜ……!喰らいやがれ!」



その言葉と同時に魚雷を神通さん目掛けて発射する。

もの凄いスピードで飛んだ魚雷は、やがて大きな水柱を作り上げる。

水柱目掛けて突撃する木曾さんを横目に、雪風との距離を一気に詰める。



―――意識がそちらに向いている今がチャ……!?



詰めている途中、嫌な予感に襲われその場から後ろに飛んだ。

先程まで居た場所に降り注ぐ砲撃の雨。

視線を先に向けると雪風がこちらを見てニヤリと笑う。



「やはり読まれていたか……!」



吐き捨てるように呟いてジグザグに航行する。

距離を詰めようにも、的確な砲撃の前にはそうもいかない。



「木曾さん……!」










「…やはり無傷か。化物かお前は」

「化物扱いは酷いですね…」



水飛沫の中、対峙する木曾と神通。

お互いに相手の行動パターンを把握している為、下手に動けない。



少し離れた所で起こっている砲撃音。

雪風と響の動きを見てから、木曾は口を開いた。





「今回の演習…あいつの為なんだろ」

木曾は響を見ながら神通に問いかける。



「お前にどんな意図があるのかは知らねぇ。どうせ今は言えねぇんだろ?」

「すみません…ですが、この演習は貴女方の司令官の意向でもあります」

「アイツの、ねぇ…」



司令は謎が多い男だ。

長いこと秘書艦を務めてる木曾でさえ、知らないことはまだまだある。



―――それでも……





「まぁアイツが仕掛けたことだ。それが現時点での最良の選択肢ってことなんだろう」

「…信頼しているのですね」

「当然だろ」

笑いながら木曾は答える。



「アイツは俺に命を預けた。だから俺もアイツに命を預ける。簡単な話だろ?」

「その絆が、貴女たちを強くさせたのですね」

「…茶化すなよ」



神通の言葉に木曾はほのかに頬を赤らめる。

その様子を神通は微笑みながら見ていた。





「今回は響の為の演習。言ってしまえば俺らは舞台の脇役だ」

「…………」

「だけどよ……」



強くなる為の儀式だ、なんて他の皆には言ったが、

左手の薬指にはめられた物を何よりも大切にしている。





―――想いが人を、艦娘を強くする。





安いドラマのキャッチコピーの様だが、

そんなのもたまには悪くはないかと木曾は思う。





頭を軽く左右に振り、手元の20.3cm連装砲を構えながら、



「それでも…それでも、俺はお前との決着をつけたいと思っている!」

と、屈託の無い笑顔で木曾は言い放った。



「ふふふ、そうですね……私もです…!」

神通もまた、同じ気持ちであった。



前回の演習では木曾との直接対決は叶わなかった。

今回の主役は自分たちではないが……





「脇役には脇役なりの、意地があるっ!」

「その通りです…!」










「くっ……流石にやるな雪風…!」

「響さんこそっ!」



雪風の砲撃を掻い潜りながら必死に反撃を試みるも、なかなか当たらない。

規格外の回避性能だよ、まったく……!



悪態をつきながら一旦後方に下がる。

雪風も同様に後方に下がり、お互いに体制を整える。





「はぁ……はぁ…っ!」



なんということだ、一発も当たらない。

以前の演習の時より動きが格段に良くなっている。



「まったく……大した駆逐艦だよ、本当に」



島風とこの雪風は本当に同じ駆逐艦なのか、たまに疑わしくなる。

……しかし、解せないことがある。





―――何故、雪風はこちらに当てようとしない?



「まるで時間でも稼いでるかのような……」

「大丈夫か、響」

「木曾さん……ああ、大丈夫だよ」



ひと悶着終えてきた木曾さんが隣に来る。

神通さんを相手に、息一つ乱してないこの人も大概化物だな……





「そろそろ陽が落ちる……夜戦、行けるか?」

「……当然!」



まだ雪風にまともに一撃入れてないからね。

しかし……





「よし……夜戦、突入する!」

「……了解」



いつもの演習、そして、いつもの夜戦。

それなのに……



「……神通さん!」





―――なのに何故だろう……胸がざわつく……





「ええ……行きますよ……!」

神通さんが足元の装備に手を掛ける。





(ドクン……)

……何だ?





「―――探照灯、照射」





(ドクン……ドクン……!)

「…………ッ!」



突然の激しい頭痛と動悸に思わず頭と胸を抱えて、膝をついてしまう。



「……!?おい!大丈夫か、響!」



(ドクン……!ドクン……!ドクン……!)

隣にいるはずの木曾さんの声が遠くに聞こえる……





―――大丈……夫、そんな……しんぱ……



―――少しの……頼ん……





(ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!)

「あ……あああ…………」










―――響。








「あああああああアアアアァァ!!!」



過去の記憶が一気に脳内を蹂躙していく。

ダメだ……もウ……



ナニモ……カンガエ、ラ…レ………










「……き!響!!!避けろ!!!」

「…………え?」



我に帰ると目の前には相手旗艦の神通さんの姿があった。



「油断しましたね……次発装填済みです」





探照灯の閃光と共に砲撃音が耳の奥まで響いた。



砲撃音が遠ざかっていく……



木曾さんの声も……



そして……自分のいし…………も……

















――

―――



「……う…」

「ここ……は…?」



見慣れた天井。

自室。



「そうか……私はあのまま……」



倒れた……のか。



「今朝の夢といい、どうかしてるな私は……」



未だに追い続けてしまう最愛の人の亡霊。

彼女はもういないというのに……



―――愚直に、追い求めてしまう。





(コンコン)

ノックの音が鳴り響く。



(響姉、起きてる?)

雷だ。

心配して様子を見に来てくれたのだろうか。



「大丈夫…起きてるよ」

(なら良かったわ。入ってもいいかしら)

「ああ、構わないよ」





(ガチャ)

「おはよう、気分はどうかしら」

「体は問題無いよ。気分は決して良いとは言えないけどね」

「でしょうね」



クスクスと笑いながら雷はベッドの脇の椅子に腰掛け、持ってきた林檎を剥き始めた。

鮮やかなナイフ捌きで皮をあっという間に剥いていく。



「相変わらず見事なものだね」

「ありがと。はいどうぞ」



剥いてもらった林檎を口に運ぶ。

「甘い、ね…」

「でっしょー!遠征の帰りに買ったんだけど正解だったわ!」



本当に甘い、甘すぎる。



林檎も…私も……





「暁姉のこと、頭によぎったの?」

「…………」

「やっぱりね…」



呆れるように雷が呟く。



「響姉が戦闘中に上の空になることなんて、それ以外ありえないものね」

「……すまない」

「無事だったから別に良いわ。あの状況、私や電も冷静でいられる自信なんて無いし」

「…………すまない」

「もういいったら!………ごめん」

「いや、いいんだ。雷は悪くないよ」



妹に気を使わせてしまうなんて姉失格だな……





―――暁姉だったら。



―――暁姉だったら、どう接するのだろう。





「…………」



……ダメだ。

言葉が……言葉が、出てこない。





「ふぅ……まぁいいわ。私はただお見舞いに来ただけじゃないの」

「……?」



そう言うと、雷はポケットから一枚の書類を取り出した。



「響姉に良い知らせと悪い知らせを、持ってきたわ」

「知らせ……?」

「そう、司令官からの、ね」



司令官から直々に……

ということは……





「処分、かな」

「悪い知らせは、ね」



コホン、と軽く咳払いをした後に、雷は司令官の代弁を続けた。





「特Ⅲ型駆逐艦、二番艦、響。貴艦を『暫く』の間、自室謹慎処分とする」

「……まぁ、当然か」



そう、当然の処分だ。

平和を守る存在が、演習とはいえ戦闘中に狼狽して戦えないようじゃ何の意味も無い。





「…それで、謹慎の期間は……」

「それは響姉が一番分かってるんじゃないかしら?」

「…………」



無期限の謹慎、か。

正直、目覚めた時から覚悟はしていた。



亡き姉の亡霊を追って、私は動けなくなっている。

こんな状態の兵器が、一体何の役に立てるというのか。





…もういっそのこと、銃後に下がった方がいいのかもしれないな……





「…悪い知らせはこれでおしまい。良い知らせを伝えるわ」

「…………」



こんな私に、今の私にどんな良い知らせがあるというのだろうか。

お門違いな怒りを雷にぶつけそうになるが、グッとこらえた。





「実は響姉が眠っている間に、新たに艦娘が一隻着任したの」



―――新艦娘。



「それで響姉には暫くの間、その子の嚮導というか話し相手になってもらうことにしたわ」

「…それは良い知らせなのかい?というか謹慎の身なのでは……」

「話し相手にさえなってくれればいいそうよ。

慣れない環境での不安を取り除いてくれれば万事おっけー」

「そういう役目は雷の方が適してるんじゃ…」

「本当は私の役目なんだけどね。でも、今の響姉に拒否権はあるのかしら?」

「……無いね」

「ちなみに司令官には『響姉が自主的にやりたいと申し出てきたから変わった』って。

そう伝えてあるから、そこんとこよろしく頼むわね☆」



姉を脅迫して仕事を押し付けるとは何て妹だ。

しかし、新たな艦娘の着任か…



「その子、ということは駆逐艦なのかな?」

「さすが響姉。察しがいいわね」

「あまり褒められてる気がしないな…」

「まぁまぁ。戦艦や空母の先輩の、っていうよりは気楽でしょ」

「そりゃあ、ね」



仮に戦艦や空母の先輩だったら何を話せばいいのだろう。

「○○のデカ盛り定食最高ですね」とでも言えばいいのだろうか。

……自分の首を絞めるだけだな。





「それで、その子にはもう来てもらってるの」

「来てもらって、って…」

「だから部屋の外でスタンバイしてもらってるんだってば。そろそろ入ってもらうから」



そう言って雷はドアに近づいて行った。



「い、いや、いきなり過ぎてまだ心の準備が……」

「そんなもん、なるようになれ、よ。当たって砕けなさい」

「砕けちゃダメだろう……」

「まぁ何でも良いわ……ごめんお待たせー!入って入って!」



まったく…人の言うことなんてまるでお構いなしだ。

今度、電にお灸を据えてもらうよう頼も……





そこまで思考して、思考したところで回路は停止した。



「えっと…その…」



雷に招かれて入ってきた、一人の少女によって、私の思考回路は完全に、停止した。










「特Ⅲ型駆逐艦、一番艦、暁。本日付にて着任しました」





そう言って少女は私に敬礼した。



今、この少女は何と言った?

あか……つき……?





(ちょっと雷、響が凄い顔してるんだけど)

(いやぁ、流石に無理もないか)





二人が何か話しているようだがよく分からない。

本当に、何が起こっているのか分からない。



私は夢でも見ているのだろうか。





「…さて、じゃあ私はそろそろ行かないと。暁姉、あとお願いね」

「えっ、あなたまだ来たばかりじゃないの」

「司令官から頼まれごとがあるのよ。申し訳ないけどよろしく頼むわ」

「う、うん…」

「…………」





じゃあねー、とだけ残し雷は去って行った。

姉二人と、この状況を置き去りにして。



「久しぶり……何十年ぶりかしら……」

「…………」





―――あか……つ……きねぇ……?





「そうじゃなくて…えっと…」





―――暁…姉……っ!





「ただいま…そう、ただいま…!ひび………きっ…?」



気付けば駆け出していた。

勢い余って押し倒してしまった。



きっと面食らった表情でも浮かべているのだろう。

しかし、私にはそれを確かめる術はない。





「…えっと、ひび」

「……き…」



「…え?」



「……嘘つき…」

「死なないって言ったのに…絶対戻ってくるって言ったのに…」



暁姉の胸に顔を埋めるようにして思いの丈を搾り出す。



「響…」

「嘘つき…嘘つき……」



感情がコントロール出来ない。

視界は滲み、言葉も上手く紡げない。





「ごめんね…響。約束、守れなくて…嘘ついて、ごめんね……」



私の顔に手を当て、暁姉が私に向き合う。

きっと今、私は酷い顔をしているのだろう。



「………」



ついには言葉も出なくなった。



「いっぱい待たせちゃって……ごめんね…」

「うっ…ぐす……うん…」



私の帽子を取り、あやすように頭を撫でてくれる。



「でも、こうして帰って来れたわ…もう貴女たちを、響を一人にしない」

「うん………うん……っ」





―――優しい声。懐かしい、声。





「司令官やみんなから聞いたわ。今までよく頑張ったわね…流石は私の自慢の妹だわ」

「でも、そのせいで誰にも甘えられなかったのね…」





―――とても、とても。





「これからは私に目一杯甘えなさい!拒否権なんてないんだからね!」





―――安心する。





「響…私の、私の初めての妹…」










もう、限界だった。



「う…うわあああああああああん!!!」

「大丈夫よ…私はここにいるわ、響…」

「暁姉っ!ううう……暁、ねぇ…っ!」

「うん…うん……そうよ、私は暁。三人の素敵な妹たちに囲まれた、世界一幸せな姉…」





暁姉が、いる。

ここに、はっきりと、存在する。



その事実を確かめるように強く、強く抱きついた。

それに応えるように強く、強く抱きしめてくれる。



いつまでも。いつまでも…















「…これで良かったかしら、司令官」

「…………」



部屋から出た雷が呟く。

無言で司令は頷いた。



「しっかし、司令官も人が悪いわね。私たちにまで内緒にしなくても良かったのに」

「……え、その方がビックリするだろうからって?ホントよ!全くもう……」



そう言いつつも、雷は目に涙を浮かべながら微笑んでいた。





「神通さんに演習を持ちかけたのも、探照灯を使わせたのも…」

「…やっぱり司令官が仕組んだことだったのね」



不自然な演習。不自然な人選。

その全てが響の為と考えれば合点がいく。



だが司令曰く、木曾には誰を選ぶように、とは指定をしなかったという。

しかし木曾は迷いなく正解を導き出した。

流石は司令を一番よく知る秘書官であると言えよう。





「…ところで、響姉の処分だけど……」



そこまで言いかけた雷の目に映る一枚の書類。

それを司令は無造作に引き裂いた。





「『もうその必要は無い』……か。司令官には敵わないわね」



荒療治は見事成功した、といったところだろう。

今後の戦闘における懸念事項が一つ解消されたと言ってもいい。

もちろん、響自身の心の問題も、である。



「良かったわね、響姉……」



心底安堵する雷。

そんな雷の頭を司令は優しく撫でた。





「ふふ……邪魔しちゃ悪いし、私たちは行きましょ」



そう言って雷と司令は歩き出す。



「しかしこれからは一食分増えるわね……はぁ、貧乏鎮守府は辛いわ」



悪態をつきながらも、顔には満面の笑みを浮かべていた。

















――

―――





「ぅ…ん……ここは…?」



目が覚めるとそこは見慣れた場所。

どうやら泣き疲れてそのまま眠りについてしまったらしい。



先ほどの自分の取り乱しっぷりを思い出して頭を抱えたくなる。

しかし、抱えようにも手が片方しか動かないことに気付く。



「……んぅ……」



ベッドの脇に目をやると、そこには暁姉がいた。

私の手を、しっかりと握ったまま眠っている。



「………夢じゃ…ないんだね…」

「すぅ…すぅ…」



よく眠っている暁姉の帽子を外し、自分がしてもらったように頭を撫でる。



「子供扱いしないでって、怒られちゃうかな」

「すぅ……すぅ……う、ん…響………」

「…ん?どうしたい、姉さん」

「……まを…撫で撫で……しないでよ……すぅ…」

「ぷっ…」



思わず吹き出してしまった。

こんな寝言が本当にあるとは。



「ふふ…司令辺りに撫でられる夢でも見てるのかな」

少し皮肉混じりに呟いた。





「でもこのままじゃ風邪引いちゃうから…ね」

ベッドからシーツを持って降り、暁姉の横に腰掛ける。



「これなら大丈夫…かな?」

起こさないよう慎重に、二人を覆うようにシーツに包まった。

傍から見たら芋虫みたいだが、まぁ仕方ないだろう。



「すぅ……すぅ……あったかい……」

「おやすみ、姉さん」



暁姉の前髪を持ち上げて、額にキスをする。

くすぐったそうに体をよじらせる様が愛おしかった。

















――

―――



「さーて、じゃあみんな並んで並んでー!」

「とっても楽しみなのです!」

「ちょっと雷!そんなに急かさないでよ!」

「ほらほら姉さん、急いだ急いだ」

「響まで!もう!」



次の日の鎮守府。

執務室には司令や青葉に加えて、暁、響、雷、電の四隻が集まっていた。



『せっかく姉妹全員揃ったのだから、記念写真を撮りたい!』

と、雷から司令へ意見具申があったのだ。



司令はこれを二つ返事で了承した。

駆逐艦が四隻活動出来ない分、遠征などの業務に支障が出そうなものだが、

秘書官の木曾は「まぁ問題ないだろ」と笑いながら穴の空いた業務に奔走していた。





「いやー、ようやく暁型四姉妹勢揃いですねぇ、司令官」

「………」



例によって無言で頷く司令。

平常運転だなぁ、なんて思いながら青葉は続けた。



「何にせよ良かったです。ほら、見てくださいよ、みなさんのあの嬉しそうな顔」



司令の横で青葉は嬉しそうに語る。

彼女もまた、響たちの心配をしていただけに、

今回の暁の着任は彼女にとっても喜ばしいことであった。





「響さん、いい顔をするようになりましたね」

そう青葉は呟いた。



「クールで物憂げな表情も良いですが、今の表情の方がずっと素敵です♪」

四人と同様に、青葉もまた、いい笑顔を浮かべていた。





「青葉さーん!そろそろお願いしまーす!」

「あっ、はーい!今行きまーす!」

「では司令官、青葉、取材…あ、いえ、写真撮って参りまーす!」



そう言って青葉は駆け出して行った。

その姿を見送る司令もまた、いい笑顔を浮かべていた。





「じゃあ暁姉がセンターね!はい、この旗持って!」

「私は別に…って、何よこの旗は!」



それは第六駆逐隊と書かれた旗であった。

だが、デザインが誰が見ても幼稚園児が書くようなそれであった。



「こんなお子様染みた旗を姉に持たせるんじゃないわよ!」

「うふふ、遅れてきた罰なのですよ、暁お姉ちゃん♪」

「い、電まで!」



どうやら味方はいないようである。

現実は非情である。



「いい加減観念したらどうだい、暁姉」

「響…!い、一人前のレディに対してこの仕打…」

「ここまで妹たちを待たせた人が、どうしてレディを名乗れるのかな?」

「怖!響、笑顔が怖いわよ!」

「そうかい?だったらやるべきことは分かってるよね、ね・え・さ・ん?」

「わ、分かったわよ…や、やれば良いんでしょ!やってやるわよ!」



腹を括った暁がその恥ずかしいデザインの旗を力一杯掲げている。

顔を真っ赤にして涙目になっている様を見て、雷と電は顔を見合わせて笑っている。










「では撮りますよー!1+1はー!」



「「「にっ!!!」」」  「…に」









「うんうん、いい写真が撮れました!では、後ほどお渡ししますねー!」



そう言って青葉は颯爽と去っていった。





「………」

「どうしたんだい?姉さん。そんなに肩を震わせて」

「ぷっ…響姉、それを言っちゃあ可哀想だよ」

「はわわ!暁お姉ちゃんがタコさんみたいになってるのです!」



電の言葉がトドメになったのか、暁の肩の震えは頂点に達していた。



「ちょ、電…もうダメ!もう限界!あははははは!!!」

「えっ、えっ?い、電、何かおかしなこと言ったのですか!?」

「ああ、最高の煽りだったよ」





「もー!!!姉をバカにするなーーー!!!」










暁の怒声と、それ以上に大きな3人の笑い声が鎮守府にこだまする。



もう彼女たちを分かつ障害は無い。



澄み切った青空のように、彼女たちの表情もキラキラ輝いている。















―――○○年五月七日、単冠湾鎮守府ヨリ大本営ヘ電文。



―――本日付デ「第六駆逐隊」ノ編成ヲココニ表明ス。





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fin.







【後記】
物凄い久しぶりにSS書きました()
夏場に布団を頭から被りたいレベルの出来ですが、少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。

暁響もっと流行れ。
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[ 2014/09/13 21:14 ] 艦これSS | TB(0) | CM(0)